≈Mad Madagascar≈

東京からお送りする草の記録です

園芸におけるCITESと植物防疫と国際希少野生動植物種

ちょっと観察から離れまして今日は通称「ワシントン条約」と呼ばれているアレについて。5,000円を超える植物を買った事がある人や、それに興味がある人は知っておいて損はないでしょう。

私も不勉強な部分が多々あるので、改めて勉強し直してみました。超ざっくりまとめです。すこし長いですが、ぜひ読んでみてください。

 

※絶対間違えられないので、誤りがありましたらご指摘お願いします。

※ここでは動物に関しては触れず、植物の中でも園芸の観点からまとめました。

※2018年12月現在のまとめです。法律や条約は変わる可能性がありますので、これは参考程度にとどめていただき、最新の情報を入手してください。

 

  

≈≈≈ CITESとは ≈≈≈

Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora

日本では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」というそうです。受験生ならこれを丸暗記する必要があるのですが、全く意味がないのでCITESで十分でしょう。

要は「気象などの自然環境で絶滅するのは仕方ない部分はあるけど、人間のエゴで動植物が絶滅しちゃうのは絶対あかんでしょ。なんとかしましょう」ということで国際的に決められた決まりです。

 

重要なのはCITESとは、国際的な人間の経済活動によって絶滅しちゃう可能性がある動植物に関する条約であるということです。国内での管轄は経済産業省

 

※主に動物の絶滅危惧種などに「レッドデータ」とか「レッドリスト」という言葉が使われますが、それとは全く別のもので、レッドデータは非政府組織である国際自然保護連合 (IUCN)がリスト作成および発行を行っています。

 ※CITESは国をまたぐ輸入・輸出のみに効力を発揮し、国内の取引については一切効力を発揮しません。国内の取引に関しては後述。

 

≈≈≈ 附属書 ≈≈≈

稀少性 (絶滅の危険性)を附属書 Ⅰ〜Ⅲの3段階で評価しています。すなわち、この世の植物は、Ⅰ〜Ⅲのどれか、もしくは非掲載という4つの分類のうちのどれかに当てはまるということが言えます。園芸界隈では便宜的に「CITES 1」や「CITES 2」などと呼ばれることが多いです。 

分類一覧はここに載っています。
ワシントン条約について(条約全文、付属書、締約国など)(METI/経済産業省)

  

附属書 Ⅲ

商業的な輸入が可能で一番ランクが低い。世界的に見れば大丈夫そうだけど特定の地域で割とヤバイ。というような植物がここに入っています。

CITESのリストを見てみると、Ⅲだけは種小名のあとに括弧で国名が記載されています。これを「掲載国」と呼ぶそうです。

掲載国からの輸入に限り、輸出国の輸出許可証が必要です。個人輸入する際などは注意が必要。

 

附属書 Ⅱ

こちらも商業的な輸入が可能。中ランク。すぐ絶滅って感じではないけど野放しにしておくとヤバイ植物たち。おそらくあなたのもとで大事に育てられている植物はここに該当するものが多いのではないでしょうか。

ここに掲載されている植物はすべて、輸出国からの輸出許可証が必要です。

 

附属書 Ⅱの例:パキポディウム属全種、サボテン科全種 (コピアポアもここ)、ユーフォルビア属全種。ただし、これらの科・属中でも附属書 Ⅰに掲載されている種もあるのでそれらは除く。他にも多数掲載されています。

 

附属書 Ⅰ

最も危険、まじでヤバイ植物。野生個体の輸入は0%ではないが不可能と思っていいです。「かっこいいから現地球育てたい!」とか絶対無理です。輸入するためには輸出国、輸入国の両方の許可証が必要だそうで、非常に手間も時間もかかるそうです。

 

ただし、登録を受け、認められた施設や団体が販売のために繁殖させたものは例外となり、附属書 Ⅱと同じ扱いで輸入ができるようです。(とういうことは成長が極めて遅い植物はやっぱり絶望的)

 

附属書 Ⅰの例:Pachypodium ambongense, Pachypodium baronii, Aloe pillansii 

 

≈≈≈ CITESと種子 ≈≈≈

CITESは象牙やワニ革のなどの贅沢品の流行による乱獲を防ぐ目的もあり、輸出許可証はその動植物の生死に関係なく必要となります。

また、その動植物の骨、血液、花、枝一本、毛一本などたとえ「一部」であっても輸出許可証が必要です。当然ドライフラワーも対象となっています。

ただし、植物に於いて「種子」は例外とされ、この許可証が必要でない場合も多いです。

これについては、先程も記載した、
ワシントン条約について(条約全文、付属書、締約国など)(METI/経済産業省)

にある「ワシントン条約附属書 (解釈)」というファイルと「ワシントン条約附属書 (植物界)」という2つの.pdfファイルを照らし合わせながら確認できます。

まず「ワシントン条約附属書 (植物界)」というファイルを見てみると、学名のあとに#で番号が書かれているものがあります。これはその番号を「解釈」のファイルで確認し、意味を見てくださいねということです。

例えば、附属書 Ⅱの一番最初に掲載されているアガベ 笹の雪はこういう記載になっています。

Agave victoriae-reginae #4 笹の雪 (アガヴェ・ヴィクトリアイーレギナイ)
Queen Agave; Queen Victoria Agave

#4がついていますよね。次に「解釈」の.pdfを見ながら#4にはどういう意味があるのかを確認すると、このように書かれています。

#4 次のものを除くすべての個体の部分及び派生物


(a) 種子(ランの種子鞘を含む)、胞子及び花粉(花粉塊を含む。)。ただし、メキシコから輸出されたサボテン科(spp.)の種子並びにマダガスカルから輸出されたベカリオフォイニクス・マダガスカリエンスィス及びネオデュプスィス・デカリュイの種子は、この除外の適用を受けない。

(b) 試験管中で固体又は液体の培地で得た実生又は組織培養体であって無菌の容器で輸送されたもの

(c) 人工的に繁殖させた植物の切り花

(d) 帰化したか又は人工的に繁殖させたヴァニルラ属(ラン科)及びサボテン科の果実並びにその部分及び派生物

(e) 帰化したか又は人工的に繁殖させたオプンティア属オプンティア亜属及びセレニケレウス(サボテン科)の茎及び花並びにその部分及び派生物

(f) 包装された小売取引用に準備されたエウフォルビア・アンティスュフィリティカの完成品 

 よって、Agave victoriae-reginae (笹の雪)の種子はCITES Ⅱの適用を受けず、輸出許可証が不要だということです。(ただしサボテンに#4がついていたら、メキシコから種子に限りCITESの制限を受けます)

上記のように種子がCITESの適用外となる番号は、#1, #2, #4, #14, #15, #16です。こう見ると結構な数の植物の種子は輸出許可証がなくても輸入することができます。

 

「なんだじゃあ種子は簡単に輸入できるのね」と思いますが、そうは問屋が卸さないのです...。それについては次の項目にて。

 

≈≈≈ 植物検疫証明書 ≈≈≈

前項からの続きにもなるのですが、ここで勘違いしてはいけないのが、輸入の際の注意点として、附属書 Ⅰ〜Ⅲに載っている植物はもちろんのこと、リストアップされていないものも含む全ての植物の輸入には「植物検疫証明書」というものが必要になるということです。さらにこれは種子も対象となります。

植物検疫はCITESとは別のベクトルであって、絶滅しそうな植物を守るということではなく、国内に害虫や寄生虫を持ち込まないようにするためのものです。これの管轄は農林水産省植物防疫所というところです。通称「植防」。人生をやり直せるならここに就職したい。

 

例えば、あなたが台湾に行ってパイナップルをお土産に持ち帰ろうと思った場合、台湾国内で植物検疫証明書を発行してもらい、日本の空港の植物防疫所で検疫を受ける必要があります。

 その他にも、例えばタイ旅行のついでに、CITESの附属書には掲載されていないタンクブロメリアを買って、日本に持ち帰る場合でもこの検疫証明書の発行は必要です。

 

例としてヨーロッパなど海外のナーセリーから種子を輸入する場合のパターンを見てみましょう。

Agave victoriae-reginae (笹の雪)の種子の場合
前項でも申し上げましたが、これには#4がついており、サボテンではないので、種子はCITES適用外です。よってナーセリーには「植物検疫証明書」だけ用意してもらえばOK。

Operculicarya pachypusPachypodium ambongenseの種子の場合
これらには#番号がついていません。ということは、種子も制限の対象となるということです。すなわち、輸入のためには「輸出許可証」と「植物検疫証明書」の2つが必要ということになります。さらに言うとアンボンゲンセは附属書 Ⅰなので、日本国内でも輸入の許可を取る必要があります。もう無理だな、と思いますよね。

 

一応、上記が正式なルールかと思うのですが、現状はインヴォイスの書き換え、そもそも種子の見た目で種小名まで判断することは難しいなどの理由から、CITESをすり抜けて国内に入ってくる種子も多くありました。 

 

また、これまで植物検疫に関してはかなりゆるい部分があり、輸出国の検疫証明書がなくても、帰国後もしくは輸入時に日本国内の空港で簡単な検疫だけ受ければ、警告はされるがパスできたというケースも多々あったようですが、2018年10月1日からは容赦しないよという通達がなされております。

現在ヨーロッパの大きなナーセリーでは、追加で日本円にして3,000円〜5,000円程度を支払えば「植物検疫証明書」の発行を行ってくれるところもありますが、世界的に見て日本への植物の輸出は非常に手間がかかるため、日本への出荷を積極的に行っていないナーセリーや販売者が多いのも実情です。

 

これらからもわかるように、海外から日本国内に植物や動物、もっと言えば有機物を入れることは容易ではないということです。個人レベルの趣味の園芸では、手間だけでなく、コスト面でも輸入は採算が取れにくいです。

 

≈≈≈ 園芸における国際希少野生動植物種 ≈≈≈

CITESは前述の通り「国際取引」のみに効力を発揮します。では国内ではどうなのでしょうか。

 

CITESの附属書 Ⅰに掲載されているものがそのまま国内では「国際希少野生動植物種」としてリストアップされています。環境省のページの表二に植物界の一覧が掲載されています。国内取引での管轄は環境省となります。
環境省_国際希少野生動植物種一覧

 

そして、国際希少野生動植物種のリストに掲載されているものを国内で販売したり、譲渡するためには、すべての個体で登録が必要であるかのように書かれています。

登録がない場合は、販売のための陳列さえ許されないということです。
環境省_譲渡し等の規制及び手続き

 

でも例えばAstrophytum asterias (兜丸)はCITESの附属書 Ⅰに該当します。えっ... とってもヤバイじゃん。

「兜丸なんて、ちょっとめずらしいもの置いてる植物屋さんならどこでも売ってるけど、買ったときに登録票なんかもらったこと無いよ...」と思いますよね。

実際に、動物 (いわゆるペット)業界では、植物に比べて厳しく、CITESの附属書 Ⅰに該当するものの多くは「登録票」が必要となります。

しかし「譲渡し等の禁止の適用除外」という例外が認められており、植物界に於いてはほとんどが適用外となっています。園芸の立場から見れば、この登録票に関してはほとんど無視してしまってOKです。

 

植物において、国内での譲渡や販売時に「登録票」が必要なものは下記が全てです。(和名やカタカナの日本読みはリストの原文ママ)

  1. ナンヨウスギ科 Araucaria araucana (チリーマツ)
  2. キク科 Saussurea costus (木香)
  3. ヒノキ科 Fitzroya cupressoides (アレルセ), Pilgerodendron uviferum (チリーヒノキ)
  4. マメ科 Dalbergia nigra (ブラジリアンローズウッド)
  5. ヤシ科 Dypsis decipiens (デュプスィス デキピエンス)
  6. マツ科 Abies guatemalensis (グァテマラモミ)
  7. マキ科 Podocarpus parlatorei (アンデスイヌマキ)
  8. アカネ科 Balmea stormiae (バルメア ストルミアエ)
  9. スタンゲリア科 Stangeria eriopus (オオバシダソテツ)
  10. フロリダソテツ科 Ceratozamia属 (ツノミザミア属) 全種, Encephalartos属 (オニソテツ属) 全種, Microcycas calocoma (ミクロキュカス カロコマ), Zamia restrepoi (ザミア レストレポイ)  

たったこれだけです。見ての通りほぼすべて「木材」なんですよ。園芸にはほとんど関係がないということです。しいて言うならエンセでお馴染みEncephalartosを含むフロリダソテツ科の数種くらいのものですが、普通の人の手に負えるものではないです。

 

ただし、もしもEncephalartos属 (オニソテツ属)を栽培する場合は、購入時にかならず登録票を渡されるかを確認する必要があります。登録票がない場合は違法となり、販売者は大きな罰金を食らいます。会社組織だと一発で傾くレベルだと思います。

さらに補足ですが、今手元にEncephalartos属 (オニソテツ属)があり、それの登録票もある状態だとします。この株がカキコや採取した種子などで株を増やした場合は、株単位で登録が必要となります。

ただし、拳銃のように許可 (登録票)なしで所持するだけで罰せられるというようなことはなく、譲渡や販売をしない場合はこの登録票は必ずしも必要というものではないようです。

 

≈≈≈ 国際希少野生動植物種 登録の条件 ≈≈≈

上記の通り、園芸に於いてはほとんど関係ないといえますが、登録を受けるための条件は下記に限られるとのことです。

①国内で繁殖した個体
②条約適用前に国内で手に入れたもの
③適正な許可を受けて輸入されたもの

 

また、登録に必要なものは

①登録のための申請書類
②個体の写真
③入手経路を証明できる書類

などが必要なようです。③なんかはどうすれば良いんだろう。例えばどういう書類なんでしょうか。

 

≈≈≈ 今後どうなっていくのか ≈≈≈

このCITESの附属書は3年に一度を目処に更新されているということです。例えばですが、もし今後Pachypodium rosulatum (2018年現在は附属書 Ⅱに該当)が附属書 Ⅰへと変更になった場合、変種であるグラキリスやイノピナツム、エブレネウムも附属書 Ⅰの対象となってきます。

もしそうなった場合は、いわゆる「山どり」と言われる現地球は一切入ってこなくなるでしょう。正式にCITESの更新があってから、適用されるのは数カ月後ということなので、その数ヶ月の間とんでもない取引が行われ、一瞬にして高騰やメチャクチャなディールが行われる可能性もあります。

このペースでブームが続くとアンボンゲンセやバロニー以外のパキポも附属書 Ⅰになる日はそう遠くないかもしれません。

コピアポアなんかはちょっと心配です。コピアポアが附属書 Ⅰになったら相当な稀少種になるのではと思います。国内実生もなかなか厳しく、それなりの株になるには私の子供 (いないけど)が老後にやっと楽しめるくらいのものでしょう。

 

ただし先にも書いたように、附属書 Ⅰになったからと言って、国内で登録票まで必要になるケースは非常に稀です。

今後もしもパキポディウムが附属書 Ⅰとなり、さらには登録票の対象となった場合は、これまで購入した株を含むすべての株の譲渡や販売にはひとつひとつ登録票が必要となります。そのまま自分で育て続ける場合にはこの限りではなさそうです。

 

≈≈≈ 参考 ≈≈≈